古民家リノベーション
岩手県西部・奥羽山脈焼石岳中腹の東斜面一帯に広がる夏油(げとう)高原。
その入り口・夏油集落に建てられた築80年以上の古民家は、材料づかいから始まり、雪対策や防腐対策、茅葺屋根の高さや防風林の位置に至るまで緻密に計算され尽くした、先人の知恵が詰まった建物です。
今日まで躯体がびっくりするほど傷んでいないこの建物を、できるだけ余計な手を加えず、 趣をそのままに改修(リノベーション)し、 〈kobiru 小昼〉が誕生しました。
古民家が持つ味わいを生かすため、間仕切りには古窓や板戸を、壁や天井の仕上げに漆喰を用いるなど、古材や自然素材を積極的に利用。 床や開口部には断熱材を入れ、冬の寒さにも備えています。
戦時中に建てられた築80年以上の古民家。 私たちがこの古民家の改修準備をはじめたのは、2016年の春でした。
屋根裏に登ると、建物の施主と棟梁の名前、年月日を記した棟札が。 火伏札や、柱は背くらべのあとも。本襖や畳下には戦局悪化を伝える新聞、一銭硬貨、五銭硬貨、沢山の古民具など、古民家の歴史を物語る品々にいくつも出会いました。
時代の遷り変わりとともに在来工法を取り入れながら修繕し、大切に住み育ててきた古民家の歴史を、出来るだけ壊さず崩さず、生かしていくことを目標に改修をスタートしました。
できるだけ自分たちの手で改修工事を行うことを優先し、下地(表に現れない骨組み)は、他現場より頂いた古材や端材を再利用しました。仕上げ材にも同様に、合成樹脂や化学物質を含んだ建材をできるだけ使わず、無垢材や漆喰を多用し、呼吸する空間が出来上がりました。
北国には避けて通れない冬の対策には、これまでの床を剥がし40センチ厚で断熱材を敷き詰めました。
古民家独特の空気感を生かすため、内装や家具に古道具や古材を積極的に活用しています。 古窓や建具、床板や欄間などを解体現場から譲り受け、古窓はパッチワークのように組み合わせ間仕切に、長持はソファーへとリメイクしました。
経年劣化で床が沈み、自然災害等で建物に歪みがあっても、躯体がしっかりしている事が多い日本の伝統家屋。先人が培ってきた技術の素晴らしさとともに、長い時間をかけて生まれた趣ある空間も、とても貴重なものです。
再生できる諸条件が揃っている古民家は、壊さず解体せず、手を加えることで、長い歴史を重ねてきた建物でしか実現できない空間づくりができるはずです。
〈 kobiru 小昼 〉のリノベーションは、そんな空間づくりの一例です。